高市早苗ポスターを分析する
首相まんじゅう販売中
酷暑の8月、皆様お過ごしでしょうか。先日、奈良国立博物館に南都仏画―よみがえる奈良天平の美―」を見に行ったのですが、その帰り道に近鉄奈良駅至近のひがしむき商店街を歩いていたところ、店先に「さなえちゃん」の文字がに目立つお菓子が陳列されていました。
いわゆる「首相まんじゅう」と呼ばれる、議員会館などで販売されるお土産用お菓子(「首相まんじゅう」は小泉純一郎の時代に始まるそうです)で、パッケージは奈良県出身・女性初の総理の誕生に対する地元の祝福ムードに溢れ、背景に国会議事堂、大仏、鹿が描かれています。

山崎屋奈良漬店本店前 2026年8月4日 筆者撮影
動詞がないキャッチフレーズ
さて、このパッケージの中でも一際目立つのが「日本列島を、強く豊かに。」というキャッチフレーズですが、私はこのフレーズは、2025年12月に高市首相のポスター公開された時から、「なんとなく座りが悪いな。」という印象を持っておりました。その理由の一つが、動詞がないということ。歴代の自民党総裁のポスターを並べて振り返ってみると、それぞれに共通しているのは、主語はないものの主体の意思を表す動詞(果たす・守る・働く)はあるということです。
そのほかに共通点を挙げるとするならば、
仰角・視線を上に向ける
ネクタイの位置を基準とするバストショット
太ゴシックの文字(岸田文雄・石破茂は斜体を取り入れて、スピード感・勢いを表現)
自民党のロゴの上に「政治は国民のもの」という党としてのメッセージがある

32万枚印刷された紅白ポスター

二種類制作された高市早苗ポスター
自民党の広報「日本(ニッポン)列島を、強く豊かに!高市総裁の新ポスターを発表」にも記されているように、初回印刷で32万部印刷され、過去10年間で最多印刷部数とされていますから、党としていかに広報に力を入れ、紅白のポスターで女性首相誕生の祝祭ムードを盛り上げようとしていたことがうかがわれます。確かに紅白のカラーリングは視認性が高く、街中で見かけても目立ちます。
白背景のポスターは、「高市総裁の動きと笑顔で「皆さんと共に」という姿勢をアピール 」(自民党広報)するもので、ポスターを見る側のアイレベルに高市早苗の正面と視線が向けられる構図になっています。デザインの要素を挙げると以下のようになるでしょう。
赤い枠線で上半身を囲い、頭頂部は枠線の前に出す(雑誌などの表紙で。タイトルのロゴの上にモデルの頭部を重ねる手法に通じる。 見る側に対して手を差し出し誘いかける効果を強めている)
太めの明朝体を用いて、漢字の文言を強く印象づける
日の丸+ 自民党のロゴ それまでにロゴに添えられていた「政治は国民のもの」というフレーズはない。

象徴・国家との一体化
白背景のポスターで特に印象に残るのは、掌を上に向けて差し出された右手の仕草です。紅白というナショナルカラーと、日の丸を連想させる円形の中に収められたロゴ、「日本列島」と何度も「日本」を表す要素を繰り返しその中に佇む様子から連想したのは、第一次世界大戦期にアメリカ合衆国で制作されたポスター「愛国的であれ 食料節約の宣誓に署名しよう 米国食料局」 (1918年)(以下図版中央)です。星条旗を纏ったアメリカを象徴する女神コロンビアの姿と並べてみると、手を差し出すポーズは「誘う・崇めよと訴える」ジェスチャーに見えます。第一次世界大戦期のアメリカのプロパガンダポスターでは、ジェームズ・モンゴメリー・フラッグ(アメリカを擬人化した男性)が「アメリカ軍は君を求めている」 (1917年)の方がよく知られていますが、男性のように相手を指さして威圧的に命令を下すという態度を取らないところに、「女性らしさ」が表現されています。

全身像の印象づけとグラデーションを用いた文字表現
赤背景のポスターの特徴はなんといっても、頭からつま先まで全身を画面の中に捉えている、というところにあります。(私は、これまでに、政治家のポスターで全身を捉えたものをほとんど見たことがありません)自民党広報によれば、「高市総裁の凛としたたたずまいの全身像で、「不動の決意」と「情熱」を表現 」とあり、頭頂と画面上辺、つま先と画面下辺の間にスペースが設けられ、「画面の中に小さく収まっている」という印象を与えます。さらに、キャッチコピーが横書きで大きく胴体・膝下まで覆っているために、全身が小さく見えます。

全身を捉えることで存在は印象づけられているが、キャッチフレーズの主語と動詞がない空疎さが際立つ。
キャッチフレーズを横書きで幅一杯に、胴体全体の上に重なるように配置。 文字のサイズと、頭頂と上辺、足元と下辺のスペースにより、全身が見る側の視界に収まり、細身のプロポーションが印象づけられる。
グラデーションでメタリックな質感と立体感が表現されている
このように「小さく見える」ことが重要視されているのは、特に男性を見る側として想定したい時に重要な意味を持っているように思われます。歴代の男性の総裁は仰角で「堂々とした頼れる人物であること」を印象づけるものが大半ですが、同じような方法で女性の姿を捉えると、通常多くの場合「女性は男性よりも背が低い」ことが前提であるために、「大きく見える女性」は親しみやすい・好印象の対象とはならないことが多いからです。「女性は小柄に見える方が感じがいい」というチューニングがなされた構図ともいえます。
さらに、グラデーションでメタリックな質感と立体感が表現されている文字ですが、これも政治家のポスターではあまり多用されるものではないが故に目を惹きます。
女神コロンビアのポスターとの連想で思い出したのが、映画配給会社コロンビア・ピクチャーズのロゴです。松明を掲げ、星条旗を掲げる女神コロンビアが空を背景に佇む姿を映画の上映前に見た記憶がある方も多いと思いますが、その姿を彷彿させるものがあります。
並べてみると、「愛国の女神」のイメージに重ね合わせた「女性総理」のイメージを作り出そうとしていた意図が浮かび上がってきます。

衆議院選挙前に桁違いの再生回数を叩き出した動画
2025年12月にポスターが公開された翌月に衆議院選挙が公示、2月に選挙が行われたことは記憶に新しいですが、投開票日前日にレシピを検索していた時に、レシピ動画の下から「日本列島を、強く豊かに。」と出てきたときには、自民党広報があまりにも多く表示され、「多額の広告費を投入できる政党が、有権者の認知を獲得できて、選挙に勝利する」という状況はあまりにも問題が多いだろう、と色々な意味でゲンナリしました。

その後、ニュースで自民党の広報動画が1億回以上の再生回数を叩き出したことが「高市人気」の証左として報じられ、暗澹たる思いになりました。
1億回越えの再生回数がどのように生み出されたのかは定かではありませんが、改めて分析すると、30秒余りの動画に自己責任論(自助・共助は示唆するが、公助は示さない)・能力主義・国家との一体化・有害なポジティブ思考が詰め込まれていて、これはうまくできていると思います。実際に大学で講義をして、一連のポスターや動画を分析・解説すると、「前向きな態度」に好感を持つ人が一定数いるので、若年層に訴求する要素はしっかりと盛り込まれていると思います。
高市早苗です。
「挑戦しない国」に「未来」はありません。
「守るだけの政治」に「希望」は生まれません。
「未来は自らの手で切り拓くもの」
自民党はその先頭に立ちます。
逃げません。ぶれません。決断します。
頑張る人が報われ、困った時には助け合い、 夢を持って働ける国へ。
日本列島を、強く豊かに。 皆様とともに。
フェミニズムの右傾化に抗するために
高市早苗ポスター分析を含むエッセイ「女性政治家のイメージとポピュリズム」が、『シモーヌ』2026年夏号の特集「フェミニズムの右傾化に抗するために」に掲載されますので、お読みいただけますと幸いです。(8月中に注文いただけますと送料が無料になります)
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