「ルッキズム」と広告表現

「ルッキズム」に関連する講演の内容一部を紹介します
小林美香 2026.08.10
誰でも

そもそも「ルッキズム」とは?

「ルッキズム」という言葉を見聞きする機会が増え、「ルッキズム」をテーマにした講座の依頼を頂くことも増えてきました。今回は講演でお話ししている内容の一部をご紹介します。

ルッキズムに関連して行った講演

「ルッキズム」とは、「Look(外見)」と「-ism(主義)」を組合わせた1970年代に生まれた造語で、「外見至上主義」や「容姿差別」と訳されます。私が「ルッキズム」という言葉を意識するようになったのは、脱毛や美容製品の広告表現に関心を寄せ、分析を行うようになったのは2010年代末で、フェミニズム雑誌『シモーヌ』の創刊号に寄稿し、現代思想2021年11月号 特集=ルッキズムを考える で「脱毛広告観察」という論考を寄稿したのが「ルッキズム」というテーマに直接結びつくものです。それらをきっかけとして広告への関心を深め、『ジェンダー目線の広告観察』を執筆、その後小学生を対象とする『人は見た目!? ルッキズムの呪いをとく!(全3巻)』(フレーベル館 2025)の2巻に協力、ウェブメディアでルッキズムやジェンダーバイアスに関連する取材を受けてきました。

取材を受けた記事

西倉実希さんの『ルッキズムってなんだろう?』(平凡社 2025)では、引用・参考文献として『ジェンダー目線の広告観察』を入れて頂いています。

私の関心は、ルッキズムという外見に関わる差別意識・問題そのものを取り扱うというよりも、そのような外見に対する意識を醸成するメディアと表現の課題にあります。「Look(外見)」は、動詞のlook、すなわち見るという行為に結びつき、人がそれぞれの容姿をどのように認識するのか、社会生活や私的な関係性の中で、容姿が他者からどのように見られて、評価を受けているのか、という「見る・見られる」の関係の中で起きる意識や感情が「ルッキズム」と呼ばれる問題の根底にあります。消費社会の中でメディアや広告は、社会的規範、ジェンダー規範意識を消費者に刷り込む力を持っているので、その中に含まれる価値観や影響力に注視する必要がある、という観点から講演でお話をしています。

「見られていること」を常に意識させる脱毛広告

脱毛広告に関心を持ち調べる中で気になったのは、「自分の容姿が人からどう見られて、評価を受けるか」ということが執拗に描かれること、そして、低評価によって生じる問題を解決するための方法は「脱毛一択」と強圧的に迫るものが多いということでした。小学生からの学齢期を対象とする「キッズ脱毛」では「毛深いことが悩みで、習い事や体育で周囲の視線が気になる」とか、若年層対象の美容・医療脱毛では、「ムダ毛を処理していないと恋愛や友人関係、就職活動に支障が生まれる(≒他者から拒絶される)」といった脅迫的なメッセージが執拗に繰り返されます。(脱毛広告の分析について、詳しくは『ジェンダー目線の広告観察』をお読みください)

このように「他者からどのように見られるか」ということが、自分自身の「価値」に直結するという認識を刷り込み、またその「価値」を高めるために、脱毛や美容に勤しむべしというメッセージは、広告表現の中で「見られる対象(客体)」としての女性に延々と投げかけられてきました。つらつらと振り返ってみると、20年ほど前に「モテブーム」という、異性に好かれることを目指したファッション・ライフスタイルのブームが女性向けのファッション雑誌で巻き起こったことがありました。「モテ〇〇」、あるいは「〇〇モテ」のように、あらゆる商品に「モテ」という言葉が形容詞・接頭語のように添えられ、誌面で活躍する読者モデル、ファッションモデルが人気を博していました(「えびちゃん」こと、蛯原友里、「えみち」こと鈴木えみが代表例です)。彼女たちは男性の視線を一身に受け、その視線を内面化した上で、振る舞いや装いで表現することが「モテク(モテるためのテクニック)」として推奨されていました。

雑誌「PINKY」(2005年8月号) モデル:鈴木えみ

雑誌「PINKY」(2005年8月号) モデル:鈴木えみ


2010年代以降は、「私らしさ」「自分らしさ」といった言葉で、他者からの目線や押し付けられる評価よりも、自分軸での行動や装いを大事にすることが推奨されるようになり、「モテ」という言葉は以前のように頻繁に用いられなくなりました。しかし、ソーシャルメディアの普及、美容医療の広がりなどを背景に、「このような容姿(肌・髪・顔立ち)」が社会の中で高く評価されるということが盛んに喧伝され、美しさや可愛らしさの基準が狭く設定され、白人至上主義的な人種的意識が含まれているように感じます。そのことは、「ハーフ顔」、「外国人風ヘア」、「貴族手術(鼻翼基部形成術(貴族手術)」といった美容業界・美容整形で用いられている用語に反映され、目指すべき理想の容姿を「西欧的・白人的なもの」と結びつけて形容する言葉が定着し、広告や美容のコンテンツを通して繰り返し用いられています。

物議を醸し出した「ダヴ」の国際ガールズデーのキャンペーン(2024) 

2024年10月に、美容整形の用語を用いてトイレタリーブランドのダヴが、国際ガールズデーに展開したキャンペーンは、「美の基準」を表す美容整形の用語を打ち消して、「#カワイイに正解なんてない」と呼びかけものでした。しかし、このような美容整形の用語を公開すること自体がルッキズムを助長すると反発を呼びました。私はこの広告に対する反響について広告表現の観点から「コンプレックス広告」を逆手にとるはずが… ダヴ「炎上」の背景という記事でコメントを寄せています。(以下部分的に引用)

「ダヴの広告に対する反応は、企業に向けた批判だけではなく、毎日のように広告に傷つけられている人たちの不満の声でもある」
「若い人たちが、広告によってこれだけキツい表現に日々さらされていることを知らせる提言とも読み取れる。大企業がそこに手を付けることの意義はある」とした上で、「インターネット上で目にしてうんざりしているようなワードを入れた広告を、わざわざ(駅のような)人目につく場所に掲示するな、という感情が出てくることも不思議ではない」と見る。
「近年、脱毛やスキンケアの広告は、『身だしなみを整えて清潔感を保つことで周囲から好感を持たれる』という打ち出し方が強くなった。特に男性の脱毛広告でよく表現されるのは『デキる男は脱毛する』といった、能力に関わってくるような巧妙な文脈で語られることが増えている」
国内では現状、コンプレックスをあおったり、ルッキズムを助長したりするような広告の表現方法について明確な共通ルールや規則はない。小林さんは「特に、今のインターネット広告は無法地帯。表現の自由はもちろんあるが、加害の自由としていいのか。子どもを守ることを目的に、若者の目に触れるインターネット広告では過激な表現を規制することが必要ではないか」と指摘している。

「コンプレックス広告」を逆手にとるはずが… ダヴ「炎上」の背景

この広告が物議を醸した際に、さまざま報道記事で広告が掲出された渋谷駅構内、階段壁面の写真が掲載されました。それらの写真の大半は「ダヴ」の広告をクローズアップで捉えたものですが、中には別の壁面も画角に捉えたものがあり、その写真からは糸リフトによる「小顔」を宣伝する美容広告が掲出されているのを見て取ることができます。つまり、「ダヴ」の広告を目にした人は、同時に美容整形クリニックの広告も同じ場所で見ていたのです。美容整形クリニックの広告がいたるところに掲載されている状況に対する「批評」の役割を担おうとしていたことも鑑みれば、ダヴの広告に対して否定的な評価を下すのは少し筋が違うのでは、と考えます。本当に問題視すべきなのは、多額の広告費を投入して需要を作り出し利潤を追求する美容医療業界・自由診療科目と医療全体の構造の問題ではないでしょうか。

「ダヴ」の広告に見る画像技術の進化

「ダヴ」は、国際的なトイレタリーブランドとして、長年にわたってキャンペーンの中で「作られた美の基準を問う」ことを行ってきました。その中から「画像技術の進化」に関わるCMを3つ紹介します。

Dove:The Evolution of Beauty (2006)

モデルの女性がメイクルームに入り、メイクアップ、撮影、フォトショップによる画像の修正・加工を施されて、最終的に街中のビルボードに仕立て上げられるプロセスを早送りで再現しています。PC上で画像加工のプロセスが示されること、画像公開の場がビルボードという公共空間に設定されていることに、スマートフォン登場以前(iPhoneは2007年発売)の時代を感じます。

Dove | Reverse Selfie | Have #TheSelfieTalk 2021

Dove:The Evolution of Beauty (2006)から15年後、スマートフォンの普及とSNSの浸透を経て、Reverse Selfie | Have #TheSelfieTalk 2021では、自撮り(selfie:ちなみに、selfieという言葉は2013年にオックスフォード英語辞典に新語として登録されました)を公開する少女が自らの写真にフィルタやエフェクトで加工をする過程を逆再生しています。

このキャンペーンは屋外広告としても展開されました。

13歳の少女の80%は、自分の顔をリタッチしている。
リタッチすることで、少女は自分の自尊心も削っている。

屋外広告としての展開

屋外広告としての展開

The Code | A Dove Film | Dove Self-Esteem Project (2024)

2025年にはオンラインで公開されている情報の9割がAI生成だと言われる。
私たちは、AIにどのような美を学習させたいだろうか?

「The Code」

AIが急速に変化を遂げつつある状況の中で作られたのが「The Code」 (2024)です。この動画は上記のようなフレーズから始まり、AIにプロンプトを入力して作り出される女性のイメージが、「想像上の美しい女性のイメージ」として次々と映し出されます。その後、「DoveのReal Beauty Ad による美しい女性を描いて」というプロンプトに続いて、多様な人種、年齢、体型の女性が映し出され、最後には「Let's Change Beauty(美しさを変えよう)」というフレーズが表示されます。

3つの動画をつなげてみると、画像・情報技術がいかに劇的な進化を遂げ、身体に対する認知の仕方を変えてきたのかということが浮かび上がってきます。「ルッキズム」の問題もこのようなテクノロジーがもたらした「見る・見られる」の関係や価値観の醸成、心理面への影響と共に取り組むべきなのでしょう。

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