水辺と空と

アルベール・マルケの絵画、ラルフ・スタイナーの写真を巡る雑感
小林美香 2026.10.05
誰でも

雨や台風の襲来続きで、日照時間の少ない9月が終わり10月に入りました。外出もままならなかったり、あるいは台風や大雨の被害を受けられた方もいらっしゃることでしょう。不安定な天候が続く中で私は、家の掃除や断捨離に励み、朝はしっかりと室内の換気をして、心身を崩さないように心がけています。

今回は広告に関係する話題ではなく、最近見た展覧会や私の手元にある写真集について書いてみたいと思います。

SOMPO美術館開館50周年記念 アルベール・マルケ展

SOMPO美術館(ゴッホの「ひまわり」がコレクションに収蔵されていることで有名です)で開催されているアルベール・マルケ展(会期:2026.09.22(火)- 12.13(日))、今回の展覧会で初めて知った画家だったのですが、ポスター、メインビジュアルに使われている水辺の景色に惹かれて見に行きました。透明感のある水の描写、水面の奥行きと遠景の山、点在するボートや船を目で追ううちに、こんな水辺に行ってみたいと、絵の中の世界に誘われていきます。

出品作品の多くは、河岸や海辺などの水辺の景色を描いたもので、「マルケのグリ(灰色)」と表されるように、天気や日差しの移ろい、湿度や微妙な空気感が感じ取られます。ドラマティックな出来事が展開する瞬間というよりも、淡々と過ぎていく日常の景色がとどめられているように思われます。だからこそ、時代を超えても、その景色の中に身を置く感覚で見ることができる、といった感じでしょうか。

《ル・ビラ》1935年、油彩、カンヴァス、ボルドー美術館

《ル・ビラ》1935年、油彩、カンヴァス、ボルドー美術館

私が気に入ったのは、「ル・ピラ」という作品。(大方の展示作品は撮影できないのですが、この作品を含め、「撮影可」のマークが付いている作品が数点あります。)ボートや海水浴を楽しむ人の姿が描かれた夏の海辺。手前の砂浜を眼下に臨む高台のような位置から描かれ、輝く水面と入道雲が視界の中に広がります。砂浜と浅瀬にせり出た小さな突堤のようなものが画面左下から出ていて、その上に人が立っています。その人物の視線の先に浅瀬で泳ぐ人。さらに海辺に点在するように浮かぶボートや船を見ていくと、視線がジグザクを描きながら画面の奥に吸い込まれていきます。浅瀬の水面の砂浜の色から海の色へと徐々に移り変わっていく様子が、色を置くように描かれた短い線の連なりとして表されています。

部分

部分

絵を見る時の習性で画面の構図分析をするのですが、上辺と水平線の間と、突堤と下辺の間が同じくらいの幅で平行線を引き、突堤の棒と左辺の間と同じ幅を右辺の間で平行線を引く(黄色の線)と、画面の中心に正方形に近い形が現れます。その枠の中に、砂浜と浅瀬の色の変化を斜線で分割し(赤の斜線)、突堤と並行になるように斜線(白の斜線)を引くと、正方形と部分的に重なる平行四辺形が現れます。こんなふうに、色彩の諧調と画面の構図を吟味していると、「いつまでも見ていられる」という感じです。左手前の浜と浅瀬の色に合わせたと思われる、美術館の黄土色の壁面の色の調整も素晴らしいです。展示室が、作品の空間の延長のように感じられました。

展覧会は12月13日まで。秋の深まった時期に見るとまた違う趣が感じられるかもしれません。

雲を追い求めて

さて、冒頭で「断捨離に励んでいる」と書きましたが、仕事柄書籍が溜まってしまうので、読まなくなった書籍、写真集やアートブックも整理して売却しました。ここ数年の執筆活動や関心の変化もあり、写真集を開くこともほとんどなくなったという事情があります。写真集は大切に見てくれる人の手に渡った方がいいと思っています。本の仕分けをしながらこれは手元に残しておこうと思ったのが、20世紀のアメリカで活動した写真家ラルフ・スタイナー(Ralph Steiner, 1899-1986)の『IN PURSUIT OF CLOUDS IMAGES AND METAPHORS』(1985) タイトルが示す通り、雲を撮影した写真で構成されています。収録作品の一部は、こちらで見ることができます。

表紙には水平線と雲、まるで鳥の群が一つの方向に向かって羽ばたいているようにも見えます。タイトルに「Metaphors(隠喩)」とあるように、雲がさまざまなものの姿に重ね合わせられ、何か意味を持ったものとして語りかけてくる、そんな雲の姿をラルス・スタイナーは追い求めていたのでしょう。

裏表紙には、草原で植物を手に綿毛を飛ばしている姿の写真が使われています。飄々としたチャーミングな人柄が窺われます。

写真にとらえられたさまざまな雲と、広大なアメリカの山並みや草原を眺めていると、日常の慌ただしさや煩わしさから逃れられます。ありがたい逃避先です。ふと思い出したのは、この写真集と近い時期に発表された坂本龍一のアルバム「音楽図鑑」に収録されている「羽の林で」という楽曲の歌詞の一節「Clouds form and reform in the strong wind, Never stopping in one place (強風の中で、雲は形を作り、形を変える。決して一つの場所にとどまることはない。)」でした。

お知らせ

  • 「さらばのこの本ダレが書いとんねん」に出演しました。お二人の話術巧みで、うまく編集していただきました。個人的には、コメント欄に「著者が宮川花子に見えてきた」と3人の方から指摘されたのがウケました(光栄です!)

    街中の広告に潜む「男らしさ」を24パターンに分類・分析し、あるべき社会を考察!
    ▼世に溢れる“男らしさ”広告集  ①背景高層ビルおじさん  ②人間のコピー&ペースト  ③岡田准一三部作  ④裸&マッチョ集団  ⑤大谷翔平崇拝

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